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関東電化NF₃工場火災:上流ガス事故がもたらす半導体リードタイムの中長期リスク

NF₃工場火災と市場動向を踏まえた半導体供給の中長期リスクと当社の推奨

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NF₃工場火災と市場動向を踏まえた半導体供給の中長期リスクと当社の推奨

公開日:2025年12月8日
発行:イノエレクトロニクス(INO Electronics)

概要:早朝に起きた火災がサプライチェーン全体に波紋

2025年8月7日未明、日本の産業ガスメーカーである関東電化工業株式会社(Kanto Denka Kogyo)の群馬県渋川市・渋川工場で、NF₃(窒素三フッ化物)を生産する設備を含む火災が発生しました。会社の発表によれば、火災は午前4時30分頃に発生し、同8時40分頃に鎮火しましたが、従業員1名が死亡し、1名が負傷する痛ましい事故となりました。
当該工場の主力製品のひとつが、ウェーハおよびディスプレイ製造工程で用いられる洗浄・エッチング用の重要なプロセスガスであるNF₃です。
NF₃は、単体ではどの半導体デバイスの仕様書にも登場しない“縁の下の力持ち”ですが、多数のファウンドリやIDMの生産ラインの保守・稼働リズムに直結するため、今回の火災は日本国内にとどまらず、世界の半導体サプライチェーン全体から注目を集めています。

時系列と業界背景:火災と他社撤退が重なり、NF₃供給の余力が縮小

火災の状況

事故の概要は以下の通りです。

  • 事故発生日時:2025年8月7日 午前4時30分頃
  • 場所:関東電化工業 渋川工場(群馬県渋川市)
  • 人的被害:従業員1名が死亡、1名が負傷
  • 設備被害:NF₃生産ライン2系統のうち1系統が損傷し、操業停止と安全調査が指示されたと報じられています。

同業他社によるNF₃撤退計画

この火災に先立つ2025年5月、三井化学株式会社はNF₃事業からの撤退を発表しており、NF₃の生産は2026年3月末で終了、同年中に販売も停止する計画です。収益性の悪化やコスト上昇が主な理由とされています。
すでに日本国内のNF₃供給は数社に集中している状況でしたが、三井化学の撤退と今回の火災が重なったことで、短期・中期ともにNF₃供給の“余力”が縮小している点は否定できません。

市場全体の空気:パニックではないが警戒感は強い

複数の業界レポートや報道では、今回の火災が直ちに大規模な半導体供給停止につながる可能性は低いとされています。大手ファウンドリやIDMは、こうした重要ガスについては数か月分の在庫や複数地域からの調達ルートを確保しているためです。
一方で、ウェーハ需要の拡大と微細化の進展により、NF₃をはじめとするプロセスガスの需要は中長期的に増加傾向にあり、供給側のトラブルは将来の“ボトルネック候補”として強い警戒感を持って見られています。

半導体デバイスとリードタイムへの「二次的影響」

短期(0~3か月): 感情的な動きが中心で、実際の供給ショックは限定的
現時点では、ファウンドリやIDMは在庫や他地域からの調達によってNF₃不足を緩和できると見られています。ただし、リスク管理の観点から、高付加価値製品や戦略製品を優先する方針へとシフトする可能性は高く、価格競争力の低い製品や需要の不安定な製品への使用が抑制されるリスクがあります。
中期(3~9か月): 一部品種のリードタイム延長リスクが高まる可能性
関東電化のNF₃生産能力の回復が想定より遅れ、かつ三井化学が計画通り2026年にNF₃事業を終了した場合、日本国内のNF₃供給は構造的にタイトになる可能性があります。その結果、ウェーハメーカーやIDMが高収益製品を優先し、収益性の低い製品ラインへの使用を絞り込むシナリオも想定されます。
こうした状況では、ハイエンドSoCそのものよりも、DDRや各種メモリ、高度な電源IC、インターフェースICなど、“中核だが目立たない”デバイスのリードタイムがじわじわと伸びる形で影響が現れる可能性があります。

日本の車載・産業機器メーカーにとっての意味

今回のNF₃工場火災が、日本の車載・産業機器メーカーにとって意味するところは、「すぐに生産が止まるほどの危機」ではなく、「将来のプロジェクトを不意に止めるリスク要因が一つ増えた」という点だと当社は考えています。
特に注意すべきポイントは次の3点です。
単価の低いデバイスが、生産ライン全体のボトルネックになり得ること
 DDR/フラッシュメモリ、MCU、電源ICなどは、単価は高くないものの、リードタイムが30週以上に延びると車両や装置の生産計画に直接影響する部品となります。
中小ロットの顧客は、産能再配分の局面で優先順位が低くなりやすいこと
 大手機器メーカーや長期契約を持つ顧客が優先される一方、スポット調達中心の顧客や中小ロットの案件は、リードタイムや価格の面で不利な条件を提示されるリスクがあります。
問題は「部品単体」ではなく「プロジェクト単位」で発生すること
 個々の部品の値上がり自体よりも、主要車種や装置プロジェクトの中で「特定の数点の部品が確保できない」状態のほうが、事業インパクトとしてははるかに大きくなります。

イノエレクトロニクスの見解とお客様への推奨

過度な“買い急ぎ”よりも、まずは構造的なリスクの見える化を

現在の情報からは、NF₃関連の問題だけを理由に大規模な先行在庫を積み上げる必要性は高くないと当社は考えています。むしろ、プロジェクト単位で「どの部品が止まると致命的か」を洗い出し、リードタイムや供給構造の観点から優先的にケアすべき部品を特定することが重要です。
具体的には、以下のようなデバイスを中心に、リードタイム・複数ソースの有無・代替候補の有無を一度棚卸しすることをお勧めします。

  • 主力車種/装置で使用しているDDR/NAND/NOR Flashなどのメモリ
  • 車載/産業用MCU・SoC
  • 電源IC、インターフェースICなどのアナログ・ミックスドシグナル品
    当社では、お客様から対象デバイスのリストを共有いただければ、現状の市場リードタイムや代替可能性を踏まえた「簡易ヘルスチェックレポート」を作成することが可能です。

6~12か月の視点で、重要プロジェクトを優先的に守る

すでに量産中、もしくは量産予定が固まっている重要プロジェクトについては、今後6~12か月の必要数量を一度まとめて当社に共有いただくことで、以下のようなご提案が可能です。

  • 通常ルートによる中長期供給の確保(メーカー/正規代理店経由など)
  • 中国・香港・日本を中心とした市場在庫の活用による「緊急調達枠」の設計
  • 代替デバイス候補を含めた、プロジェクト単位の調達シナリオ作成
    サイト上では、例えば次のようなアクションボタンを設置することを想定しています。
    [DDR/NAND/NOR Flash 在庫・リードタイム照会]
    [車載MCU/電源IC 在庫一覧]
    [BOMアップロードでNF₃事故に関連するリードタイムリスクを簡易診断]

イノエレクトロニクスが提供できる具体的サポート

イノエレクトロニクス(INO Electronics)は、中国本土・香港・日本などにまたがる調達ネットワークを活用し、日系の車載・産業機器メーカー向けに「電子部品の緊急調達」および「顧客特化型のカスタマイズ調達」を提供してきました。
今回のNF₃工場火災に関連して、当社が提供できる主なサポートは次の通りです。

  • プロジェクト単位のリードタイム/供給リスク診断
  • 複数ブランド・複数チャネルを組み合わせた調達シナリオの提案
  • 正規ルートおよびトレーサビリティの確保された在庫の優先活用による品質・コンプライアンスリスクの低減
    上流で起きた一つ一つのニュースを、単なる“噂”で終わらせるのか、あるいは自社プロジェクトの「備え」に変えていくのかは、日々の情報の捉え方とサプライチェーン設計次第です。
    イノエレクトロニクスは、お客様の重要プロジェクトが突発的な供給ショックに左右されにくい体制づくりを、調達の現場からご支援してまいります。